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1/35「プラトーン」エリアス軍曹 タミヤMM9&125改造-AMオーディション2025応募作品「20世紀の模型」

映画「プラトーン」をはじめて見たのは小学生の頃、テレビの日曜洋画劇場だった。のちに、親戚からビデオデッキとテープをいくつかもらった中にその時の録画もあって、中学生から高校生くらいまで幾度となく繰り返して鑑賞した。

アーマーモデリング誌(以降AM誌)の今年のオーディション、テーマは「20世紀の模型」だという。AM誌面でこのテーマを見て最初に思い出されたのは、20世紀の南北ベトナム戦争を描いた「20世紀の映画」、プラトーンだった。

ジャングルの中、ただひとりベトコンに追われるウィレム・デフォー演じるエリアス軍曹。ジャングルを抜けたところで倒れ込み、日差しの中、両手を天に掲げて倒れこむ印象的なシーン。少年期の記憶に刻まれたあの映像をダイオラマで再現したくなった。

せっかくなので「20世紀の技術」でつくってみるもおもしろい。そう考えて制作したのがこれだ。

今回のダイオラマは「この写真を撮影するためだけ」に作った。プラトーンを代表する有名なシーンで、当時の販促ポスターや市販のビデオパッケージにも使われた。映画ファンやミリタリーファン以外にも知っている人は多いんじゃないだろうか。

いちおう、あらゆる角度からみて破綻せず、情景作品として辻褄があうようにはした。

おかげで、エリアスを追うジャングル側にいたベトナム兵の視点も確認できる。「監督のオリバー・ストーンや現地の撮影スタッフは、こんな画角のフィルムも編集したかもしれないな」などと想いを馳せるのも一興だ。

とはいえ、「特定の視点からの撮影=鑑賞」ありきの作品ではある。撮影者や鑑賞者の協力があってはじめて100%の完成、画竜点睛に至るのだ。

撮影や鑑賞の際にピントをフィギュアにあわせると、必然的に遠くはぼやけて見える。それならば、フィギュアをメインにした小さめのヴィネットに仕立てて、背景は絵を描いて設置する手法もある。これは本当に迷ったポイントで、カロリーと限られた制作時間を天秤にかけると、絵画の方が現実的な選択肢ではあった。背景を立体で表現するのはめんどうだな、とも思った。

そんなふうにアレコレ思いを巡らせ構想をねっていると、足元のAmmo Boxが目についた。アメ横の中田商店で20年くらい前に買った米軍払い下げ品だ。小物のミリタリーグッズを入れておこうとか、造形のマテリアルを入れようと思って買ったけど、何も活用しないまま単なるインテリアとして放置していた。

よくよく見てみると、ちょうど縦長(横長)で、深さもある。高さのあるダイオラマを収めるのにピッタリなサイズ感だ。重さはあるものの鉄板で保護されるので、作品の輸送にもいい。何より、弾薬を入れるハコにミリタリーのダイオラマを収納するというシチュエーションがおもしろい。今回のダイオラマも米軍だ。Ammo Boxもこのまま放置するより、有効活用したほうがいいはずだ。

なんかいけそうかな? いけるんじゃないかな? だいじょうぶだろう。で、やってみたらできた。

いつものブースで奥にいくほど暗くなるようにして撮影。


ここから先は、どうやって作ったか? 興味のある人向けに制作過程の記録。工程としてはおおまかに以下の3つ。

1)フィギュア
2)ジオラマベース
3)設置・収納ギミック

作業は上記の1・2・3の段階で進めた。以下から、Xに投稿した過去の画像をまとめて、個別の工程について簡単に補足していく。


1)フィギュア

2つのキットからフィギュアをもってきて、イメージに合うパーツを組み合わせてつくった。ベースにしたのは、トウミサイルランチャーの米兵運転士フィギュア。

腕部と腰部は2号戦車のドイツ兵から調達。トウミサイルランチャー付属のフィギュアは腕部が袖で覆われているので、腕まくりしたパーツがほしかった。

ベースのフィギュアは人体構造にそって切り出し。

フィギュアの表情やイメージどおりでない右手については、3Dモデリングからの3Dプリントでつくるアイデアもあった。レギュレーションでもフィギュアは大幅な改造が認められていて、部分的に21世紀のパーツを使うのもOK。フィギュアヘッドを3Dモデリング&プリントするのは経験済みで、頭部の造形についてはちょうど7月の彫刻セミナーで学んだことが活かせそうだった。(ジャン・ポール・ベルモンドの頭部を粘土でつくったので、西洋人男性の頭部は再現できそう)。ウィレム・デフォーをZbrushでモデリングするのもつくりがいがある。

しかし。

もっとおもしろいチャレンジがあるんじゃないだろうか。20世紀、フィギュアの改造はどうしていたか? 口を開けたいなら下顎で切り離して、角度を変えて接着しつつエポパテ造形。手を開かせたいならニッパーで指を一本づつ切り離して表情をつける。今回のテーマ「20世紀の模型」に立ち返るなら、そっちのほうが楽しそうだ。

2つのフィギュアを組み合わせてつくっていく。前腕部はほぼそのまま使えるが、二の腕はデザインナイフで整形していく必要がある。腰部も多少の彫刻が必要だ。

頭部の髪とバンダナはタミヤのエポキシパテで造形。そのほかパーツ間のスキマにエポキシパテを詰めて造形を加えて、乾燥したらデザインナイフやヤスリで全体を整えていく。頭部、上半身、下半身、それぞれの接続のために1mmアルミ線を打つ。

だいぶイメージに近づいてきた。ここからさらに細かいディティールを加えていく。

エリアス軍曹の装着しているジャングルジャケットは、ベースフィギュアのジャケットとは異なるモデルだ。古いCOMBATマガジンのベトナム戦特集を確認したところ、同タイプのジャケットでの兵装が掲載されていた。これを資料にする。

資料を参考に、ポケットや襟を新造する。エバーグリーンの0.15mm〜0.2mm厚の平プラ棒をいくつか集めて、適切なサイズに切り出して、縫い付けの角度などを調整して接着。ポケットのシワやタックは彫刻による。エリアス軍曹は作中でもシャツの袖を外してベストのようにしているので、再現をめざす。

シタデルのリキッドグリーンスタッフで細かいキズやスキマを埋めつつ、腕時計など小物をつくっていく。

サフはミスターカラーの黒サフを全体に拭いた後、光源方向からの白サフ。

ペイント後。

肌はシタデルのモーファングブラウン、ケイディアンフレッシュトーン、ラカルスフレッシュでグラデーション。

服はシタデルのアバドンブラック、インキュビダークネス、デスガードグリーンでグラデーション。

髪の毛は、アバドンブラック、ザンドリダスト、スクリーミングスカルでグラデーション。

口内に歯が見えるが造形はしていない。上顎側に歯を点描の要領でそれっぽくペイントしたもの。

2)ジオラマベース

捨てる予定だった発泡スチロール箱のフタを板として使えるように加工していく。

発泡スチロール板のサイズにあわせてコルクシートを切り出す。

発泡スチロール板とコルクシートを木工ボンドで接着。これがベースになる。

等高線で起伏のイメージを描いたら、イメージにあわせてコルクシートを切り出して重ねて接着。その後、モデリングペーストで地面を整形していく。

砂や砂利を散らして地形作りを進める。

0.3mmプラ板と5mmのL字プラ棒を切り出して、ベースのまわりを囲っていく。ベースとの接着は木工ボンド、プラ素材同士はタミヤセメント。

全体にミスターカラーの黒サフ。別につくっておいたヤシの木の幹もあわせて塗った。

地面作りの作業の前に側面をマスキングしておく。

ドライブラシをメインでペイント。色はシタデルのアバドンブラック、ドライアドバーク、ザンドリダストの3色を基本にしつつ混色。

100均のハケを細かく切って、芝的な短い植物をつくる。色は後から塗るので、白いハケを好みで使ってる。

少し長めの植物用に、0.3mmプラ板をハサミで細く切り出していく。ハサミで着ると自然なカールがかかってあとで都合がいい。細切りしたプラ板をまとめて接着して、植物をつくったらミスターカラーのグリーンでスプレー塗装。

そのほか植物にはWaveとグリーンスタッフのリーフパンチを活用。ジャングルの足元に散らす枯葉や、緑の色紙と組みあわた針金製の低木で使っている。

濃いグリーンのジオラマパウダーをマットメディウムにまぜたモノは、地面の窪地やヤシの木の根本などにツマヨウジで塗って、苔として使う。

ヤシの木は吉岡氏のアドバンスドグラウンドワークスで学んだテクニックを取り入れた。葉は和巧のペーパープランツ。すごく参考になったのでおすすめ。

ほかにもいろいろと細かいことをやって完成。フィギュアひとつのために、大掛かりな作業になってしまったけど、構想に近いかたちにできたのでヨシ!

横からみると、ジャングル側から日差しのある草地へグラデーション的に植栽が変化しているように見える。



3)設置・収納ギミック

このAmmo Boxにダイオラマを収納している。

フタを開けるとヤシの木も余裕をもって収納できているのがわかる。

ダイオラマを取り出す。自作した太めの針金製フックで吊りあげるしくみだ。

ダイオラマに接する部分はマスキングテープで巻いてあり、ダイオラマにキズがつかないようにクッションとした。

フックは前後ひとつづつ、合計2つ。

フタには磁石が5つ。

小さい磁石4つはハコの内部に以下のようにくっつける。この上にダイオラマを設置する。

大きい磁石は3つの薄い磁石を重ねて厚みを出したもの。これはフタのヒンジ部分に差し込む。

磁石がストッパーになって、フタがちょうどいい角度で止まるようになっている。

フタに干渉しないようにあらかじめヤシの木も角度をつけて造形・配置している。

フタを途中まで閉めれば、オリーブドラブ色の背景になる。

フタを完全に開けることもできる。

今回、「20世紀の模型」ということで、いろいろ試行錯誤しながら取り組んでみたら思いのほか楽しかった。夏の帰省で実家に帰ったときには、中学生のときにつくったトウミサイルランチャーのキットを発掘しようともした。残念ながら見つからなかったものの、その代わりに見つけたのがこちらの本だ。

昭和58年、1983年発行だから40年以上前。幼稚園の帰りに立ち寄った本屋で母親にせがんで買ってもらい、穴があくほど繰り返し読んでいた記憶が蘇ってきた。表紙に自分の名前を書いているあたり、よほど気に入っていたのだろう。途中の中表紙などにも同じようにひらがなで名前を書いていた。

著者は故十川俊一郎氏。こどもには真似しづらい技術などもふんだんに紹介した「こども向けだがこども扱いしない」内容は、その後の自分のダイオラマづくりに末長く影響を与えてくれた。(いまだにスタイロフォームを使わずに発泡スチロールでベースをつくっているのは、この本で身につけた手法だ)

今回の作品作りは、奇しくも自らの模型づくりのルーツを探ることになった。プラトーンもアマゾンプライムで久しぶりに見た。生きているうちにあと何度見ることだろう。いやぁ、映画って本当にいいもんですね。

日曜洋画劇場の解説を務めた20世紀を代表する映画評論家・淀川長治氏の名台詞で終えたいと思います。それではみなさん、さよなら、さよなら、さよなら。

それにしても、つくりたいものが多すぎて時間が全然足りないぞ!

模型や造形の素材や工具や塗料を買います。