AIがチンパンジーを見分け、Amazon Forecastがモノリスになるとき
この若いオスのチンパンジー、名前はウィリアム。あちらのチンパンジーはフィリップ。ウィリアムとフィリップは古い友人だ。二人とも最近、顔を見合わせてはため息ばかりついている。なぜかって? 原因は、最近、群れに加わったロバートのやつだ。弱くを助け、強きをくじく。とてもいいヤツで女の子にモテモテ、子供達にも人気だ。群れのボス・アーサーも一目置いている。
さあ、4匹のチンパンジーの名前が出てきた。きみは全員の顔と名前をピタリと一致させられるだろうか。
なぜこんな話をするかというと、またワクワクするニュースがあったからだ。野生の映像記録をもとに、マシンラーニングを使ってコンピュータがチンパンジーの顔を認識することに成功したという。詳しくは日本の研究.comから。
2大学の共同研究で、担当はオックスフォードがAI分野、京大が生物分野。このテクノロジーの可能性はかなり大きいと思っている。
本研究では、23 個体の 50 時間の記録から得られた約1000 万枚の顔画像を解析対象としました。その結果、画像の 92.5%で個体識別し、96.2%で男女の性別を認識することができました。さらにその大量データをもとに、14 年にわたる社会変容を解析することにも成功しました。また、個体識別した資料に基づいて、だれとだれが近くにいるかに着目することで、社会的なネットワークの解析を行いました。
個体特有の微細な外形の特徴をコンピュータが識別して、行動データを取得できるという。
これはすごい。「今こうなのは、かつてこうだから。それなら未来はこうなるはずだ」の仮説推論(アブダクション)の精度が上がるはずだ。もちろん、「今こうなのだから、かつてはこうだったのだろう」の精度も上がる。つまり、謎に包まれた過去わかり、未来がかなりはっきりとわかる、ということだ。社会生物学、進化生物学、進化心理学あたりの研究が捗るんじゃないだろうか。
たとえば、生物進化のミッシングリンクで、今までにないほど有力な仮説が出てくるかもしれない。応用の幅は広そうに思える。チョウの翅の文様の微妙な違いを突き詰めるとどうなる? 生物の亜種の限界は? カラスの社会性は未来にどうなる? 今そこにあるアレコレが解明されたらおもしろい。
ちょうど同じタイミングで、Amazonが正式ローンチしたこのサービスと関連づけて考えるのも楽しい。マシンラーニングの専門知識がなくても、データを大量に喰わせることで時系列予測ができてしまう。詳しくはAWSの公式サイトから。
Amazon Forecast は、Amazon.com と同じテクノロジーをベースとし、機械学習を使って時系列データを付加的な変数に結びつけて予測を立てます。Amazon Forecast を使用する際に、機械学習の経験は必要ありません。
引用にあるとおり、もともとはAmazon社内向けのサービスだ。ときどき、Amazonは社内向けにつくったサービスを一般向けにも提供する(その最たるがAWSなのは有名だ)。
実際にAmazonでマーケティングをやっていた頃、自分でも恩恵を受けていた社内サービスでもある。ずいぶん昔、アスキーでマーケティングの仕事をしていた頃は、ウンウン唸りながらエクセルをこねて重回帰分析をやっていた。そんな仕事がAmazonではグッとラクにできて、ずいぶん感動したのを覚えている。なので、こうして世の中に出て行くことに、ちょっとしたおもしろみも感じている。誰もがこのテクノロジーを使えるようになったことで、世界が変化する可能性がある。
そして、モノリスを思い出す。
2001年宇宙の旅で、類人猿たちは黒っぽい直方体=モノリスに触れた。すると、知性が芽生えて道具を使うことができるようになった。モノリスに触れて進化したのだ。
2001年宇宙の旅は名作だけど、映画はちょっと長いので小説版を読むのもいいかもしれない。
テクノロジーが進化し、コンピュータが圧倒的なデータ量を処理できるようになると、これまでは考えもつかなかったような仮説を立てられるようになる。あらゆる生物の種としての行く末も見えてくるだろう。あるいは、人間社会の行く末も予測できるはずだ。それも、ある程度、確度が高く。
誰もがコンピュータを使いこなして未知の分野を探求するとき、どんな未来がやってくるだろうか。
前回は魂・意識のデジタルデータ化について書いたので、今回はテクノロジーによる人類の進化について書いた。つぎは何を書こうか。